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2011年07月26日

『スピカ ~羽海野チカ初期短編集~ 』によせて。

『3月のライオン』6巻の発売に先立って、『スピカ ~羽海野チカ初期短編集~ 』も発売されました。


『3月のライオン』6巻は出版社側もなるべく全国同時発売を目指したそうですが、こちらは東京周辺は7月20日発売。
よーかいの住む地域では7月21日に書店に並んでいて、アマゾンでは7月22日に届きました。
早く読みたくて、書店に並んでいるのを見たときには、アマゾンはもう放っておいて、もう1冊買ってしまおうかと本気で思いました。(実際、『3月のライオン』ではそうやって複数冊買ってしまったことも…爆)


『スピカ ~羽海野チカ初期短編集~ 』によせて。


スピカ ~羽海野チカ初期短編集~』は、2000年から2004年までに描かれた作品群です。ちょうど、『ハチミツとクローバー』の連載が始まった頃の作品です。

収録作は、
『冬のキリン』(2000年)
『スピカ』(2002年)
『ミドリの仔犬』(2000年)
『はなのゆりかご』(2001年)
『夕陽キャンディー』(2000年夏)
『イノセンスを待ちながら』(2004年)

の6作です。

あとがきを含めて103ページと薄い本です。
「薄い本」というと、夏と冬の二回大規模な販売会が行われる、例のインディーズ系の本が思い浮かびますが、そういう本ではありません。
でも、(ごくソフトな)BL系のお話も1篇入っております(笑)。


『初期短編集』って、通常はファンのためのコレクターズアイテムのように思うのですよ。
たいてい、絵柄も作風もまったく変わってしまって、買う方もそれを承知で「まあ…好きな作家の作品だからな」と自分を納得させながら購入するケースが大半だと思うのです。

例外として、漫画家高橋しん先生の初期短編集は、「稚拙な作品で読者をがっかりさせたくない!」という趣旨で、全編同一内容を描き直して発売されましたが、そんなのは稀なケースです。…というか、個人的には高橋しん先生の初期の絵柄は好きだったので、描き直さないで欲しかったです…泣。

えと、話を戻して。
だから、羽海野チカ先生の『スピカ』も、そんなに期待してはいませんでした。

でも、読んでビックリ!
期待以上でした!!Σ( ̄□ ̄;)



羽海野チカ先生は、この作品集を発売するにあたり、どのくらい直しを入れるべきか悩んだそうですが、ツイッターでのフォロワーたちからの意見から、直しは最小限にとどめたそうです。
それなのに、このクオリティ!
驚きました。


もちろん、現在の方がいろんな面で向上しています。
でも、それは些細なことに思えるくらい、絵の荒れも少ないですし、ごく短いページ数なのに胸をうつような作品やほんわかする作品、ちょっぴりせつなくなる作品などなど、素晴らしいのです。

まさに珠玉。
ちょっとビターな童話集みたいな短編集です。


 ※以下ネタばれあります。 )


『冬のキリン』:
オールカラー6ページの超短編。
たった6ページなのに、このせつなさと余韻はなんだろう…。
このテーマは、形を変えて『ハチミツとクローバー』にもでてきます。

なんだか、羽海野チカ先生と、『ハチミツとクローバー』のはぐちゃんが重なります。
きっと、暑い国から連れてこられたのに誰も見るものもいないで、雪の中をたたずんでいるキリンを、羽海野先生は、せめて自分だけでも記憶にしっかり焼きつけておこうと、心の中で何枚も何枚もデッサンを描いたのでしょう。



『スピカ』:
バレリーナを目指す少女と、怪我によってレギュラーを外された野球部の副部長の物語。
タイトル『スピカ』は、スピッツの曲からとったものではないそうです。
羽海野先生自身がおとめ座で、おとめ座の女神が持つ稲穂の先の位置にある星から取ったタイトルなのだそう。
だけど、スピッツの『スピカ』の歌詞がとてもハマります。
プロになれる者はほとんどいないという「現実」の前に、好きなものを続けることへの不安や葛藤が描かれます。
主人公の少女、美園さんのセリフ。

「母に毎日みたいに言われるの
 さっきみたいに
 プロになれる人なんて何千人にひとりなんだって
 もしもダメだったら……
 みんなに笑われるのよって……
 だからその前にやめなさいって」

「なにかを好きになるって
 そんなに
 悪いことなのかなあ
 笑われるほど?」


それに対し、もう一人の主人公、高崎くんは答えます。
練習中にじん帯を切って、レギュラーから外されて、リハビリも時間がかかって、でも野球からはどうしても離れたくなくて。
だから、試合に出る代わりに、練習のメニューやスケジュールの管理など自分ができることを探した。
メンバーが思い切り野球に専念できるように勉強をフォローする役を思いついた。

「そうだな オレは 言ってみれば
 さっきの話で言うところの
 『ダメだった場合の人間』ってヤツになるわけだけど……
 ---どうだ?
 美園はオレを笑うか?」


泣いてもやめられないほど好きなものがあるってのはさ
 きっと
 すごいことなんだぜ



自分自身、何度も教員採用の二次試験で落とされたり、吃音があってうまくしゃべれないことも多く、たくさんのもどかしさを抱えながらも、教員採用試験へ諦めきれずに続けています。
「自分は教師に向いていないんじゃないだろうか?」
それは何百回も考えました。
でも、続けています。
そんな心に、そっと寄り添ってくれるような作品に感じました。

同時に、漫画家になるまでに多くの回り道をして、通常の場合よりもずっと遅くデビューした羽海野先生自身を描いた作品でもあるんだろうなぁ…とも感じました。

きっと、何度も諦めかけて、「もう、やめなよ」と言われたり、「自分には才能なんてないんじゃないだろうか」って不安で泣いたり。
それでも続けて、回り道の間の自分にも、時には「なにやっているんだろう…」と思いながらも、でもそんな回り道で得たものはきっとあるはずだと。
自分自身をどうしても肯定したくて。

2002年、まだハチミツとクローバーはマイナーな漫画でした。
きっと、当時はたくさんの不安を抱えながら描いておられたのだと思います。 


ちなみに、あとがきによると、
「今思うと、ライオンのひなちゃんと、高橋くんはここから来たのかな、と。」
とあります。
『3月のライオン』ファンは、そのあたりも併せて思いを巡らせながら読むと深く味わえると思います。


『ミドリの仔犬』『はなのゆりかご』:
このお話は、それぞれ1話完結ですが、どちらも主人公の少年キオの物語です。
『はなのゆりかご』は、むしろ登場人物のトゲ谷博士という老人が主人公ともいえますが、『ミドリの仔犬』の後日譚的な部分もあります。
『ミドリの仔犬』は少年探偵モノ風、『はなのゆりかご』はアンデルセンの童話にありそうなお話です。
大人も感動できるお話ですが、小さな子どもを膝にのせて、読み聞かせしてあげたくなる良質なお話です。
きっと、男の子は『ミドリの仔犬』にわくわくし、女の子は『はなのゆりかご』のロマンティックな結末にうるうるしちゃうでしょう。



『夕陽キャンディー』:
高校の教師と、その教師にほのかな思いをよせる高校生の物語。
ソフトなBL風ですが、年上の同性に「かなわない自分の理想像」みたいなものを見て、あこがれるような気持ちといえば、それに近いものは多かれ少なかれ誰にでもある気持ちだともいえます。
主人公の高校生の名前が「野宮」というところに、『ハチミツとクローバー』ファンはあらぬ妄想を抱いてしまうかもですけど(笑)。



『イノセンスを待ちながら』:
この作品だけ2004年です。
押井守監督の『イノセンス』という作品上映前に、過去の『パトレイバー劇場版』や『攻殻機動隊』などの押井守監督作品への思いを綴った作品です。
ここに描いてある「背景」というものが作品に持つ意味、「孤独な魂が巡りつく先」という言葉は、その後の『ハチミツとクローバー』や『3月のライオン』に、形を変えて咀嚼され、昇華(消化ではなく)されながら繰り返し描かれていく原点のように見えました。



こうして見てみると、本当にこの『スピカ ~羽海野チカ初期短編集~』は、今の作品に至る要素がたくさん散りばめられているように思えます。

根っこの部分は当時から変わらないんだなぁ……と。


思い出してみれば、よーかいが羽海野チカ先生の作品に出会ったのは、まだ『ハチミツとクローバー』が無名の、2巻が出た頃でした。

当時、自分自身医師から「もう、普通の生活を送るのは無理だとあきらめてください」と言われた難病をわずらい(現在は、奇跡的な回復で医師も驚いています)、何度も入退院を繰り返していました。
実家は借家でしたが、立ち退きを迫られ、でも引っ越すお金もないほど貧乏。
母は長い長い闘病生活で、起きていられる時間も短くなっていました。
追い打ちをかけるように、妹が脳腫瘍で入院。
かなり危険な部位で、いつ不慮の事態になってもおかしくない、手術が成功しても後遺症が残るかもしれないという時期でした。

そんな中、妹の入院している病院に見舞いに行き、重苦しい気持ちを振り払うように帰りに病院の最寄り駅の駅ビルの本屋に立ち入り、偶然手に取ったのが『ハチミツとクローバー』だったのです。
おそらく、店員さんが気に入っていたのでしょう。
ちょうど、1巻の途中まで立ち読みできるように展示されていました。
主人公の竹本くんにとても感情移入し、即1、2巻同時に購入して帰りの電車で読んだことを思い出します。

よーかいにとっては、そんな時期の作品群です。
(ああ、あの頃はきつかったなぁ。よく生き残れたものです。)
だから、なんとなく一方的に、羽海野先生のことは、苦しい時期をともに乗り越えてきた「戦友」みたいに感じています。



最後に、スピッツの『スピカ』の歌詞(1番の部分)を。

この坂道もそろそろピークで

 バカらしい嘘も消え去りそうです

 やがて来る 大好きな季節を思い描いてたら

 ちょうどいい頃に素敵なコードで

 物凄い高さに届きそうです

 言葉より 触れ合い求めて 突き進む君へ


 粉のように飛び出す せつないときめきです

 今だけは逃げないで 君を見つめてよう

 やたらマジメな夜 なぜだか泣きそうになる

 幸せは途切れながらも 続くのです



やっぱり、この曲、この短編集にとても合いますね。


やたらマジメな夜 なぜだか泣きそうになる
幸せは途切れながらも 続くのです 続くのです






※なお、この『スピカ ~羽海野チカ初期短編集~ 』の印税は、全額、東日本大震災への義援金として寄付されるそうです。



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Posted by よーかい at 02:19│Comments(4)読書感想文
この記事へのコメント
よーかいさん、沖縄一次合格していました。よーかいさんはどうでしたか?
もし合格していたら一緒に頑張りましょう。

よーかいさんに元気もらって早めに対策することができました。

ありがとうございまーす。
Posted by GO at 2011年08月13日 02:52
 教員採用試験の面接に関する記事を自分のブログに書きました。
 興味がある方がおられましたら、読んでいただけると幸いです。
 http://ameblo.jp/n78031416/entry-10447878562.html
Posted by 中井正則 at 2011年08月13日 10:19
>GOさん

こんばんは。
コメントどうもありがとうございます。


>沖縄一次合格していました。


それは本当によかった!

よーかいも、おかげさまで一次を合格することができました。


>もし合格していたら一緒に頑張りましょう。


ええ、お互い合格することができるように、ともに戦いましょう♪
Posted by よーかい at 2011年08月14日 00:15
>中井正則さん


はじめまして。
コメントどうもありがとうございます。



>教員採用試験の面接に関する記事を自分のブログに書きました。


拝見いたしました。
やはり、社会人と変わらない基本が大切ってことなのですね。
Posted by よーかい at 2011年08月14日 00:18
 
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