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2011年07月25日

『3月のライオン』6巻によせて。

7月22日に、羽海野チカ先生の『3月のライオン』6巻が発売しました!


このブログの以前からの読者ならご存知だと思いますが、よーかいはこの作品の大ファンなわけです。
それだけでなく、昨年の夏には羽海野チカ先生の前作『ハチミツとクローバー』の登場人物、竹本君に感化されて、北海道を自転車でほぼ縦断してきたというほどの入れ込み具合なのです。

はい、冷静に見たら引きますね。 (自分でもよくわかってますってば)

でも、良くも悪くも作品に思い入れがありすぎてしまっているのはもうどうしようもない事実なのです。
というより、ここまで思い入れを持たせてくれる、羽海野チカ先生の作品の凄さに脱帽というしかないでしょう。

以前、(出典は失念しましたが)「良い小説の条件」というものを見たことがあります。
それには、「その物語を読んだ人それぞれが、“ああ、これは自分自身の物語だ”」とどこかで感じることが必要なのだそうです。
それぞれが、「この作品をここまで“実感を伴って”理解できるのは自分しかいない!」と感じられる箇所があること、それが「良い小説の条件」なんだそうです。


そう、この作品そのものはフィクションでも、感情を揺さぶられる箇所は少しもフィクションではないのです。

だからこそ、「漫画大賞2011」(小説の「本屋大賞」に相当)と、「講談社漫画賞(一般部門)」(小説の「直木賞」に相当)という二大タイトルを同時受賞という快挙をこの『3月のライオン』が達成しえたのだと思います。


『3月のライオン』6巻によせて。


前置きはここまで。
( ※以下、ネタばれありです。 )

5巻では、表紙のオビには『誓いの第5巻』とありました。
それは、5巻ラストの主人公零くんの言葉

『ありがとう 君は ぼくの恩人だ
 約束する 僕がついてる
 一生かかってでも 僕は 君に 恩を返すよ』


という言葉に端的に表わされていました。

そして今回の6巻のオビ。
戦いの第6巻
となっています。


この巻では、それぞれの戦いが描かれています。

話の軸は二つ。
主人公の零くんやライバルの二海堂くんが挑む新人王戦のトーナメントと、ひなちゃんへのいじめ問題の二軸です。

主人公自身の戦いや成長はもちろんのこと、クラスの陰湿ないじめを小さなその一身に受けながらも、毅然と戦うひなちゃん。
家族のことすべてをまだ若いうちにすべて背負っていきている3姉妹の長女あかりさん。
難病を抱えながらも、主人公の零くんを「心友(と書いて「ライバル」と読む)と認め、真っ直ぐに将棋を指し、生きていこうとする二海堂くん(表紙の人物です)。
ほかにも、それぞれの登場人物がそれぞれの場所で、必死に「戦う」姿がとても丁寧に描かれています。

ここまで、1つの巻に内容のつまった作品はそうないと思います。
読んでいて、こちらも呼吸を忘れます。
かねてから、作者の羽海野チカ先生は、自分自身の全身全霊をすべて作品に賭けているように見えましたが、本当に命を削りながら描いているように感じます。
きっと、この話を構想するとき、ネームにおこすとき、限られたページ数で、いかにこれだけの(特に「いじめ」という重い内容を含む)テーマをエンターテイメント性を失わずに伝えるか、想像を絶する産みの苦しみがあったはずです。
それもまた、「戦い」の一つです。

『3月のライオン』6巻によせて。


作中では他の人たちもそれぞれ戦っています。
冒頭部、前巻を受けて、いじめられた友達を助けようとして逆にいじめの標的になってしまったひなちゃんに、彼女のおじいちゃんは言います。

「すげえ勇気だ!!
 大人にだってめったに出来ることじゃねぇ!!
 お前はすごい!!
 俺の自慢の孫だ!!
 お前は何ひとつ間違っちゃいねえ!!
 友達を助けたんだ!!
 胸をはれ!!」


この場面、すでに亡くなったひなちゃんの母と祖母の位牌がおじいちゃんの後ろの背景に書き込まれています。
おじいちゃん、おばあちゃん、お母さんの3人が、自分自身は直接はなにもしてやれないもどかしさを感じつつも、一緒に「戦っている」ように見えます。
実際、その後、おじいさん自身が、いじめられている孫のことを案じながらも、
「ひなはもう充分苦しんでいる 
 それなのに 俺達がこの上 
 『どうしてそんなことしたんだ』なんて言っちまったら
 ひなは本当に行き場を失ってしまうだろ?」
と葛藤する胸のうちをあかりさんに語っている回想シーンがでてきます。


零くんから相談を受けた林田先生も、一見コミカルに描かれていますが、相談に対してインターネットを開いて見せながら、苦しそうな表情で
「桐山これを見てみろ……
 『いじめ』で検索すると8千9百10万件…
 『いじめ 解決策』で検索して2百20万件…
 ---で、そのどこにも
 100%の解決方法はのっていないんだ……」

と語ります。

「立場も性格も関係してくる人間の配置も違う
 だから どのケースにも効く『完璧な答え』なんてどうやったって出てこない
 --だからって、あきらめる訳にはいかねんだ!!
 『答えが見つかんないから何もしませんでした』じゃ
 話は進まねぇ」


そのいつになく険しい表情は、林田先生も長いこと生徒のいじめ問題と正面から向き合い、「戦って」きたことを如実に示しています。

『3月のライオン』6巻によせて。


よーかい自身、子どもの頃は、いじめに遭った経験は嫌というほどあります。
戦って、戦って、戦って、生き延びたから負けはしませんでしたが、全部を自分自身でなんとかしようとして抱え込んでいたのは、今にして思えば「いじめられていることを認めたくない」という小さなプライドと、相談する仕方がわからないという、人間関係スキルの未熟さでした。

でも、経験のあることだからこそ、そのつらさ、きつさは痛いほどわかります。
自分自身の教職への隠れた志望動機も、そういった子どもたちの気持ちが、ほかの人よりもわかるような気がするからという部分も確実に存在しています。
もしかしたら、救いたいのは子どもの頃の自分自身なのかもしれないなとも思ったりもします。


ひなちゃんも、泣いたり、胃が痛んで寝込んだり、修学旅行の自由行動でもひとりぼっちで川を眺めていたりします。
けれど、つねに毅然としています。

主人公零くんのモノローグにはこうあります。

『気づいたことが
 ひとつ ある
 僕は 思ってたんだ
 辛すぎるのなら そこから立ち去っていい
 まともじゃない事を してくるヤツらには
 まともに 立ち向かう事はしなくていい
 でも
 ---そうだ 彼女は
 ただ 辛がっているんじゃない
 怒っているのだ
 それも
 腹の底から 煮えくり返る程に』



ぞくり、と鳥肌が立ちました。
連載開始当初は、まだ子どもっぽい部分が多く目についたひなちゃん。
それは、「ただ可愛らしいだけの少女」でした。
でも、いまは違います。
一人の凛とした美しい女性へと変貌しつつある彼女がいます


『3月のライオン』6巻によせて。


そんなひなちゃんの変化に対応するように、主人公の零くんも変化していきます。
どこまでいっても「自分」しかなかったのが、他者に目を向け始めたのが5巻。
これまでは、めんどうなことは黙って過ぎ去るのを待つだけだったのが、
6巻では思わずあかりさんに

「(頼ってもいい人間は)僕もいますっっっ」

と我を忘れて往来の真中で大声を発するまでになったのです。


他者とのつながりの中で生きている自分。
それは、それまでどちらかというと「うっとおしい」存在であったライバル二階堂くんの言葉を対局中に思い出して冷静さを取り戻したりする描写にも表れています。
「少年」は、少しずつ、だけど確実に「一人の男」に成長しつつあります。


そして、6巻の表紙の二海堂くん。
これまでも、彼の背負っている病気の重さは断片的に窺えましたが、対局後に倒れて即入院という状況によって、はっきりと明らかになりました。

一生つき合っていかねばならない難病。
厳しい食事制限。


『3月のライオン』6巻によせて。

実は二海堂くんにはモデルがいます。

村山聖という棋士です。
もう故人なので、棋士「でした」と書くのが正しいのかもしれません。
羽生永世名人の最大のライバルといわれるほどの才能がありながら、幼い頃より抱えた難病「ネフローゼ」により、長時間の対局では力尽きてしまうこともありました。
A級八段まで登りますが、20代で癌により亡くなります。

癌のことは最期まで周囲に隠し、その年の将棋年鑑の目標にも「生きる」と書いていたそうです。


実は、よーかいは子どもの頃、けっこう本格的に将棋を指していました。
後にプロになった棋士と対局したことも何度かあります。

その頃に活躍していたのが村山棋士でした。
その印象的な風貌と同時に、体調不良による不戦敗が多いにもかかわらずめちゃくちゃ強かったその姿は、当時将棋を指す子どもたちにとっての「ヒーロー」の一人でした。


話を戻します。
新人王戦準決勝の後、零くんに渡された棋譜は2枚ありました。

『棋譜は2枚あった…
 持ち時間をフルに使った最初の一局
 劣勢だった将棋を粘りに粘って
 優勢に転じたその直後
 先手(相手)による 先日手
 ---その果ての 指し直し……
 そこからの一分将棋による 魂を絞り出すような138手……

 (中略)

 ---僕は 二海堂の棋譜を 思い出していた
 「迷い」「ためらい」「ひるみながら」も
 それでも「自分の今まで」を信じて
 「憧れの地」目指して
 火の玉みたいに突き進む…
 まるで 一篇の
 冒険小説のようだった』



冒険小説」。
この言葉が、この6巻のすべてを表わしていると思います。

先の見えない不安や恐れと戦いながらも、それでも真っ直ぐに突き進む。
きっと、「戦う」人すべてが「冒険小説」の主人公なのでしょう。
強く、そう思いました。 



どうか、この「冒険小説」の彼ら彼女らが幸せでありますように。
同時に、自分は自分の「冒険小説」を、最期まで精いっぱい紡いでいかなければ。


そんな風に“自分の物語”として強く強く願わずにはいられないのです。



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Posted by よーかい at 02:00│Comments(3)読書感想文
この記事へのコメント
よーかいさん、神聖な場所にお邪魔しますm(_ _)m

秋になる前にもー1回。

心配くださりありがとうございます。

私事ですが、携帯を7年振りに機種変しました。それを機にパケ割に初加入。今までメールと通話が出来れば十分だったので。パソコンはウィルスにやられてからネットには繋いでません。何年も。

今までブログとか読んだことがありません。今年、試しに検索していたらよーかいさんのブログを見つけちゃいました。

他にも試験関係ありましたがなんかちがうさぁねぇ…と。

私の気持ちを言葉にしてぴったり表現してくれているような気がして嬉しかったので、勇気を出して生まれて初めて書き込みさせていただきました。

どーしたらいいのか?様子がかわって…


とにかく生命力溢れるよーかいさんなんで一目見たらわかるはず!

私は途中から教職を志し、働きつつ通信教育で免許を取得しました。私も文系・私立。高校時代、受験科目ではない理数は赤点じゃなければ大丈夫さぁとほったらかし。だから今やっています。

『3月のライオン』『スピカ』じっくり読んでみたいと思います。(ほかにもたくさん)興味を持たせてくれてありがとうございます!

周りなど気にせず自身の生涯の仕事を勇気を持って勝ち取って下さい!私も勝ち取ってみせます!

     工工四
Posted by 応援しています at 2011年07月30日 02:25
>工工四さん


わ、追加のコメント嬉しいです。
どうもありがとうございます。


>神聖な場所にお邪魔しますm(_ _)m


このブログは御嶽みたいな神聖な場所ではないので、どうぞカジュアルにお越しくださいませ。
更新が本当に不定期になっちゃっているのだけは、読んでくださる方々に申し訳ないのですが…(^^;


>今年、試しに検索していたらよーかいさんのブログを見つけちゃいました。


それは本当にすごい確率ですねぇ!
ありがとうです♪


>私は途中から教職を志し、働きつつ通信教育で免許を取得しました。
>私も文系・私立。
>高校時代、受験科目ではない理数は赤点じゃなければ大丈夫さぁとほったらかし。
>だから今やっています。


それは、とても大変なことでしたね。
似たような立場を経験してきているので、よくわかります。
本当にがんばられましたね。

よーかいも、教員採用試験を受ける前には、まず中学生用の問題集や解説書をたくさん買ってきて、中1から全部復習することからがスタートでした。
国語社会はともかく、理数(特に数学)は、完全にゼロに近いレベルから始めました。

だから、今がんばられている工工四さんの苦労されたことも、一次で落とされるたびにきっと何度も心が折れそうになりながらも、それでも(たとえ迷いながらでも)続けてこられた強さもわかる気がします。


>『3月のライオン』『スピカ』じっくり読んでみたいと思います。(ほかにもたくさん)興味を持たせてくれてありがとうございます!


ありがとうです。
羽海野チカ先生では、『3月のライオン』の前に連載されていた『ハチミツとクローバー』もすばらしい作品ですよ。
美大で過ごすことができていたら…と、登場人物たちをみて眩しく感じる作品です。
等身大の悩みや成長も。


>周りなど気にせず自身の生涯の仕事を勇気を持って勝ち取って下さい!
>私も勝ち取ってみせます!


はい!
お互い全力を尽くしましょう!!

もし今回、自分自身の結果が仮にダメな場合でも、工工四さんを応援します。
そして、よーかいは可能性のある限り、何度でも挑戦します!
Posted by よーかい at 2011年07月31日 01:08
>よーかいさん

真心のコメント本当にありがとうございます!お返事をしないと心苦しいので書き込みさせていただきます。

>このブログは御嶽みたいな神聖な場所ではないので、どうぞカジュアルにお越しくださいませ。

御嶽のようには思っていませんよ~。
羽海野チカ先生の作品を知らないのと、読んだことがないのでm(_ _)mここで書き込みをしたらいけないような気がしていました。(まだ読んでいません。すみません)

>似たような立場を経験してきているので、よくわかります。
>本当にがんばられましたね。

ありがとうございます。

>中1から全部復習することからがスタートでした。
>理数(特に数学)は完全にゼロに近いレベルから始めました

私もです!『基礎からぐんぐん』シリーズは何度も解いています。臨時で着任する前は、要領の具体的なイメージを掴むために、教科書を全科目、全学年あつめて特に算数は教科書をもとに指導法をまとめました。

試験用にまとめた指導法ですが、初めて着任する際には大活用しました。無駄はないんだな~と実感しました。採用試験を通して随分鍛えられました。
よーかいさんのされてきたことに一切無駄はないと思います。お互いにはれて採用され、無駄はなかったと言い切りたいですね!

>それでも(たとえ迷いながらでも)続けてこられた強さもわかる気がします。

ありがとうございます。

『ハチミツとクローバー』もすばらしい作品ですよ。

ちゃんと作品よみます。

>お互い全力を尽くしましょう!!

はい!V(^-^)V

>もし今回、自分自身の結果が仮にダメな場合でも、工工四さんを応援します。

恐縮です。心強い応援ありがとうございます!私も同じ気持ちです。結果が届くまでは希望を持ちつつ備えたいと思います。

昨年の模擬の内容など必要なことがあればお伝えします。ブログ以外でよーかいさんご本人にお伝えするにはどーしたらいいですか?差し支えなければ知恵をお借りしたいです。初心者なものでm(_ _)m
採用試験のページに書き込みをすると…違和感を感じたサイトの雰囲気が…(>_<)昨年の内容などおさえていたらすみません。私のおせっかいです。周りなど気にせず~、秋に~と言いながらも気になっています(^_^;)最後に、本当にありがとうございます!励まされています!よーかいさんの望みが叶うよう微力ですが祈っています!
Posted by 工工四♪ at 2011年08月01日 23:43
 
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